スースから南へ二十五キロ。
辿り着いたモナスティルは
美しく穏やかで静かな街だった。

海岸沿いには、海からの襲撃を阻むように
巨大な要塞「リバト」が鎮座している。

かつて北アフリカを制圧したイスラム勢力が
海を隔てたビザンツ帝国の侵攻に備えて
築いたものだという。

厚い石壁を見上げれば
かつてこの地で繰り返されたであろう
歴史の重みが肌に伝わってくる。

そこから少し海へ突き出た場所にあるマリーナがある。
そこに足を踏み入れた瞬間、奇妙な違和感に包まれた。

そこには、これまでの旅で目にしてきたチュニジアとは
全く別の光景が広がっていた。

日本ではまず目にすることのないような
巨大なクルーザーが
何十隻も停泊している。

デッキに自転車を積み込んだ船もある。
それらは単なるレジャーのための乗り物ではなく
誰かの「家」そのものだった。
地中海を半年から一年かけて巡る人々が
厳しい冬を避けてこの南の街へ辿り着き
船上で越冬しているのだという。

それは、有り余る富を手にした者たちが手にする
ある種の楽園のような暮らしの一片なのだろう。

マリーナのカフェは
ラマダンの最中だというのに開いていた。

眩しい光の下で、優雅にコーヒーを飲み、
煙草を燻らすヨーロッパの富豪たち。

その傍らには、どさくさに紛れてか
同じように煙草を吸っている
地元の男たちの姿もあった。

表側の通りからは見えない
ヨーロッパのブルジョワジーたちが作り上げた
もうひとつの越冬地。

空の青さも、海の青さも
日本のそれとは何かが決定的に違っている。
湿度、気温、そして降り注ぐ光の粒子。
そのすべてが混ざり合いこの街を構成する。

アフリカというよりは
「地中海圏」と言った方がしっくりくる。

穏やかな風に吹かれながら、
ふと自分自身を見失いそうになる。

僕は、一体何を見に来たのだろうか。
これが、僕が追い求めていた
「いのちの物語」なのだろうか。

それとも、ただの「観光客」として
この美しい景色の表層を
なぞっているだけなのだろうか。

地中海の光に照らされた
整然とした街並みのなかで
拭い去ることのできない
小さな戸惑いが芽生え始めている。

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