スリーパーダ。
アダムスピークとも言われるこの山は
スリランカの4大宗教の聖地となっている。

スリランカ人なら人生に一度は登るというほど
信仰の厚い山だ。

標高は2243m。
山が連なるこの地から
空に向かってそびえ立つ姿は
異彩を放っていると聞く。

天気が安定し、ご来光が望めるシーズンは
12〜4月と言われる。
山の中腹までお店が並び、
朝日を拝むために登る参拝者たちを迎える。
お店が灯す光は、山の麓から
登山ルートを示すかのように
一本の線として見えるそうだ。

麓から頂上までは、すべて石や
コンクリートの階段になっている。
その工事は主に若い軍人たちが担う。

セメントも砂利もその他工事道具も
すべて人力で運び上げ、
きれいに整備がなされる。

スリランカ人の信仰の山というだけあり
国をあげてこの山を守るという想いが
感じられると聞いた。

ぼくが登るのは8月24日。
シーズンオフのど真ん中。
とはいうものの、せっかくスリランカに
来たのだから、聖なる信仰の山に
登らないわけにはいかない。

宿はスリーパーダの麓の村に取った。
宿の人に聞くと、早い人で3時間。
雨が降っていると3.5時間。
休憩を入れてだいたい4時間くらいで
登る人が多いようだ。

ご来光が臨めるとすれば6時。
気合を入れて登るつもりで
宿を朝2時にスタートした。
すでに雨が降っている。

村を抜けしばらくいくと
明るく照らされた場所に着く。
そこで記帳し寄付を置いていく。
ノートに書かれた寄付の額には
1,000ルピー(600〜700円)が多い。
ぼくも、それにならって
1,000ルピーを寄付させていただいた。

そこからは、もう真っ暗な階段を
ひたすら上がっていく。
誰にも出会わない。
次第に霧が立ち込めてきて
5m先が見えないような状況になってきた。
幸い階段が続いているから
道を間違えることはない。

ひたすら登れば頂上には着く。
視界が制限されて、足もとの1段1段を
ライトで照らしながら登っていくと
不思議な感覚になっていく。

8月に幼なじみの友達が亡くなった。
体調を崩してから、なるべく会えるときは
合うようにしていた。
スリランカに出発する前にも
会いに行ったが、しんどそうだった。

ぼくが短パン、Tシャツで
家に上がりこんでいくと、開口一番
「ええなぁ〜、おれもそんな格好したいわ。
でも、寒くてできへんわ。夏の暑い時期に
寒いんやで」
笑いながら、そう言った。

腹水がたまり膨らんだお腹をゆすりながら
ソファに横にはなっているが、
声にはいつものハリがあった。

彼と話すのは、いつも思い出話。
一緒にいろんなことをやらかした。
話しのネタが尽きないが
ふとしたときに、これからのこと、
家族のことなどの話しがぽろっと
こぼれ出る。

彼は会社を経営していた。
そこには、自分の命と向き合いながら
死の恐怖に怯えながらも
家族のこと、会社のことを
考えなければならない苦悩がある。

ふと天井を見上げて
さみしそうな顔をする。

戻ってきたら、また会いに来るわ、と
握手をして玄関を出たのが最期だった。

スリーパーダに登ることは
修行の一環であると
考える人たちもいるそうで
あとどのくらいだろうと
人に聞いてもいけない、
そう思ってもいけないそうだ。

ひたすら念じて登る。

幸いにして、真っ暗の山道に
雨が降り、霧が立ち込め
視界が制限された環境下だったから
自分の世界に入りやすかったの
かもしれない。

しんどいと思わなかったというと
嘘になるし、あとどれくらいだろうと
考えることも度々あった。

しかし、結果的には2時間で
登ってしまった。

先に白人女性が一人すでに
登っていたから2番目だった。

まだ4時。ご来光までは2時間もある。
雨と霧と汗で、着ているものはびっしょり。
着替えの半袖シャツと取り出し
その上からダウンを羽織る。
そしてレインジャケットを着る。
しかし、かなり寒い。
その後も、カップルがグループが
少しずつ登ってきて
居場所に困るようなった。

30〜40人はいたと思うが
90%以上が欧米人。
スリランカ人が数人と日本人。

ご来光など臨めるはずもないのに
嵐のなか誰も帰らず明るくなるのを待つ。

そして、明るくなって
やっぱりダメか。と確認してから
嵐のなか、来ましたという証拠写真を撮り
急ぎ足で下山を始めた。

ぞくぞくと降りていく。

明るくなり視界が開けてきた山道を
降りていくと現実世界に
戻っていくようだ。

ご来光が見たい。
そう思って登る人が大半だろうが
しかし、見られる可能性が低い
オフシーズンでも登る人がいる。
そして、そのほとんどが欧米人。

インスタ映え好きの
同じ肌の色をした
アジアがいないことは
何か別の意味や価値があるのではないか。

写真はほとんど撮れなかったし
撮りたい気持ちにもならなかった。
だけど、ココロは満たされていた。

いい風景よりも、ぼくはそのことを
この山に臨んでいたのかもしれない。

麓に降りたころには
雨はすでに止んでいた。

=2019スリランカの旅協賛=

 

 

 

 

寒さのなか、夜明けを待つ人たち。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください