折りたたみ自転車と列車でスリランカを巡った45日
<エレファントロード(カタラガマ近郊)>
スリランカは北海道の8割ほどの面積の島国。そこに人間と野生動物が共存している。敬虔な仏教徒が多いため、無意味な殺生をしない。そのため、動物は増え続ける。自転車で走っていると、1日に何回も野犬に追いかけられる。これにはまいった。バイクも人も追いかけないのに、自転車は追いかけてくるのだ。ライバル視されているのか、なめられているのか、遊ばれているのかわからないが、こちらはただただ噛まないでね、それだけ。狂犬病が怖いから。
リスも頻繁に見ることができる。宿の木やベランダの手すりにもいたりする。孔雀やオオトカゲも郊外に行けば走り回っている。日本に比べてずいぶん野生が近いのだ。
野生動物が生息する国立公園も各地に点在し、園内をジープで走るサファリツアーもスリランカでは人気のアクティビティーの1つになっている。国立公園沿いに走る道には、象注意の看板が立っている。そこをエレファントロードという。その道を自転車で走っていると、親切なスリランカ人は、車のスピードをゆるめて窓をあけ「ここはエレファントロードだ!野生の象には気をつけろ!とても危険だ!」そう言って去って行く。追い越して行く車、バイクの人も、いろんな人が忠告してくれる。いろんな道で何十人と忠告してもらったが、幸か不幸か出会うことはなかった。
スリランカでは、平均して毎年50人ほど象に殺されているそうだ。トゥクトゥクや軽自動車くらいであればコロンといとも簡単に転がされてしまう。遭遇しないほうがいい。と思いつつも、会ってみたいという気持ちもある。
アルガムベイからカタラガマを目指し、ヤーラ国立公園沿いを南に走っていると、ついにそのときはやってきた。対向車がスピードを緩めてこちらに叫ぶ「2キロ先に象がいるから気をつけろ!」そしてまたやってくるトラックが「1キロ先にいるから気をつけろ」通り過ぎるバスの乗客からも「象だ!」という声が聞こえてくる。ゆっくりと進んでいくと、先のほうに、道路を半分封鎖するように立っている姿が見えてきた。行き交う車が象の前で停車する。頃合いを見てゆっくりと進み、窓をあけて、フルーツをコロンと落としていく。象の気をそちらにひきつけて、通り過ぎていく。象に通行料を払っているようにも見える。しばらく観察していると、好みがあるようで、スイカが一番好きなようだ。バナナやパイナップルなども落とされていくが、あまりすすんでは食べていない。車がしばらくこないと、しょうがなしに食べているようにも見える。小さなスイカは好物のなのか、すすんで食べている。象にとってはフリスクくらいの大きさだけど、美味しのだろう。
ぼくもそろそろ、勝負をしないと先に進めない。しかし、通行料となるフルーツを持ち合わせていない。考えた末、トラックの影に隠れながら行くことに。トラックにも「よろしく!」と目配せしながら走り出した。
うまくトラックが影になってくれて通り過ぎることができた。楽勝!と思っていたら、ちょっと先の藪から急に象が藪から出てきた。やばい!かなりあわてる。2頭の象にさみうちされている。引き戻っても先に進むのも同じ。心を決めてペダルを踏みこんでいく。こちらを向いてそろりそろりと歩いてくるところをギリギリのところでかわして、通行料を払わずに逃げ切ることができた。
野生の象に餌をあげるのは、いかがなものか、と日本や先進諸国では言われそうだけど、スリランカにはまた違った付き合い方があるのかもしれない。狭い国土で共存していく方法は一つではないのだろう。自分たちの常識で頭から決めつけてはいけないことをこの国は教えてくれる。