折りたたみ自転車と列車でスリランカを巡った45日

<ポロンナルワ>

ハバラナから東に向いて50kmほど走りポロンナルワにやってきた。ハバラナの標高が少し高かったのか、上りより下りの道が多く快適なツーリングだった。ゲストハウスは大通りから離れた閑静な住宅街。見つけるのに苦労したが、バルコニー付きのきれいな部屋だった。オーナーは政府職員。まだ若かったが、やり手なのだろうか。ポロンナルワに着いたその日は、遺跡めぐりはせず、町を見て回ったり、市場に見学に行ったりした。ゲストハウスに帰る際に、チャーハンとビールを買って帰った。バルコニーでご飯を食べながら今日撮った写真を見返す。それがいつもの日課になっている。

翌朝7時、宿を出て、ポロンナルワ博物館へ。遺跡地区に入る入場チケットを25ドルで買う。遺跡地区は北と南に分かれている。南エリアは小さく、石立像と図書館の遺構があるのみ。そこから1キロ以上北に行ったところに北エリアがある。メインとのなるのはこちらで、数多くの遺跡が今も残されている。ぼくは、南エリアをパスして、北エリアを自転車でまわることにした。

遺跡地区の入場ゲートを入り地図を広げる。敷地がかなり広く遺跡が点在している。ゲートから一番遠くの遺跡までは、かるく2km以上ある。自転車も車も入れるが、この広さでは車もやむなしといったところだ。まずは遺跡の中心となるクワドラングルへ。かつてシンハラ王朝があった時代、このあたりが仏教の中心地だったそうだ。朝が早いため、まだ人は少ない。スリランカでは、どの宗教施設も靴を脱いで入る。ポロンナルワの宗教遺跡も例外ではなく、靴やスリッパを階段下などにおいて、上がっていく。焼けた熱い地面を歩くのは大変だが、熱くない地面を歩くのは、気持ちがよかったりもする。足裏が土や石に触れる感覚は悪くない。

始まったばかりの朝を感じながら遺跡を巡っていく。写真を撮ってまわるが、遺跡に関する知識を持ち合わせていないためか、自分のなかで想像が広がっていかない。日が昇るにつれて、人も次第に増えてきた。ただ、先日訪れたアヌラーダプラとは様子が違う。アヌラーダプラの遺跡は、現在も信仰の対象となっている。祈りを捧げる人も多く、きれいに修復がなされている。一方、ポロンナルワは、信仰の対象というより観光のイメージが強いように感じる。遺跡を完全に修復するわけではなく、現在の姿を残すために修繕されているようにも見えた。

点在する遺跡を自転車で回った。数多くあるなかで印象に残ったものが2つある。まずはガルヴィハーラという石像。一枚岩に4体の石像が彫られている。涅槃像(寝ている態勢)、立像、座像が2体。涅槃像は横に14m、立像は高さ7mと大きいが、表情が柔和でやさしさを感じてしまう。砂岩なのか、堆積した地層が線になって横方向に何本も走り4体をつなぐ。岩に掘り出したものは、レンガを積み上げた建物と違い、風化すれば修復が難しいのではないだろうか。それがただ一つという価値を持つ。もしかすると、柔和な表情は、長年の風雨によって角がとれ、穏やかに見えるのかもしれない。それは、岩でありながら人間に近いようにも思える。想像が膨らむものは、きっと自分と波長が合うものだ。出会えてよかったと思えるもののひとつだった。

屋根をつけているのは雨や日光による風化を防ぐためなのだろう

小坊主くんたちの集団。修学旅行のようなものだろうか
顔に地層のすじが入っている。地層から掘り出したことがよくわかる

もう1つは、ランコトゥ・ヴィハーラという高さ55mの巨大なダーガバ(仏舎利塔)だ。ダーガバは、アヌラーダプラをはじめ、いろんなところで見てきたから、それほど驚きはない。印象的だったのは、仏塔のまわりに設置された祠のようなレンガを積み上げてつくった小さな建物。入口を入ると畳3枚ほどのスペースがある。窓はなく、目の前には石の小さな祭壇が設けられている。この空間は一体何だろう。そう思ってあたりを見渡してみると、外側にメディテーションルームと書かれていた。かつて、ここで僧侶たちが悟りを開くために、瞑想をした場所なのだろう。天井は四角錐になっていて、上へと伸びていくが、暗くててっぺんが見えにくい。そこが無限の宇宙につながっているようにも思えてくる。火を灯すためのオイルを燃やのか、内部は黒く、てかりがある。その黒ずんだ石や使い込まれ丸みを帯びたエッジに、この空間が内包する時間の長さが現れている。かつての僧たちは、どのような想いで瞑想をしただろうか。そんな想像が広がる場所だった。

ランコトゥ・ヴィハーラ。手前の小さな祠はメディテーションルーム。仏舎利塔を取り巻くようにいくつもあった
この空間で一体何人の僧侶が瞑想を行ってきたのか。悟りを開いた人はいたのだろうか
白の仏舎利塔は、南国の空に映える
キリヴィハーラ。上からきれいに塗られているが、お椀型の形状がいびつだ。きれいなアールを保持することは簡単ではないのだろう
遺跡地区の一番北側にあるスィバンカ・イメージ・ハウス
タイの建築様式の塔サトゥマル・プラサーダ

 

ポロンナルワの遺跡巡りは、レンタサイクルがオススメ。北エリアのゲート前にはレンタサイクル屋があった。ホテルやゲストハウスでも貸し出しがあるかもしれない。時間がない場合は、一枚岩の石像キリヴィハーラと王朝時代の仏教の中心だったクワドラングルを優先してルートを組み立てるといい。