折りたたみ自転車と列車でスリランカを巡った45日

<キャラニヤ寺院>

自転車の旅が終わり、列車の旅も終えて、コロンボに戻ってきた。あとは帰国に向けておみやげを買い、荷物の整理をするだけ。それでも時間があるから、なるべくを歩いたり、ペター近くの薄暗い卸売り市場に行ったりしながら写真を撮っていた。コロンボから北東約10キロのところにあるキャラニヤ寺院がある。コロンボ周辺では有名な仏教寺院だから行くべきなのだろうが、あまり気が進まなかった。仏教のお寺はダーガバ(仏舎利塔)がメインになっているが、もう飽きるほど見た。真摯に祈る人の姿がないダーガバにはあまり興味がわいてこない。キャラニヤ寺院はきっとそんな場所だろうと勝手に思って行くつもりもなかった。

しかし、ゲストハウスに泊まっていた外国人が、キャラニヤは他の寺院とは少し違って良かったと朝食を食べながら話してくれた。その日はコロンボの南に少し下ってみようかと考えていたが、なぜかそれを止めてキャラニヤに向かうことに。

コロンボの道路は本当に危ない。車間距離は詰めこむ距離らしく、どんどん横から割り込んでくる。バスは交通量が多くても、ブンブンふかしながらスレスレを追い抜いていく。風圧で車体側に吸い寄せられてぶつかりそうになる。本当に怖い。そんな幹線道路を北にあがり、川を越えたところで、東へと折れる。ここからは、日本でいう県道や府道のような道。そこをトコトコ走っていくとキャラニヤ寺院に到着した。

正式名称は、ラジャ・マハー・ヴィハーラ。階段をのぼり境内に向かっていく。おなじみの白いダーガバ(仏舎利塔)があるのだが、その横にダーガバに負けないくらい大きな本堂が建っている。これまで巡った仏教寺院とは趣が違う。褐色の外壁には細かな装飾が施されている。内部は薄暗くて落ち着いた雰囲気が漂う。観光客や参拝者も多いが、どこかに静寂さを感じる空間だ。部屋は4つに仕切られていたが、向かって左側の部屋が一番ぼくにはしっくりきた。壁面にも天井にもブッダにまつわる絵が描かれている。その空間の片隅でお経を唱え一心に祈り続ける女性がいた。その姿に心を奪われてしまった。窓から差し込む光と影のコントラスト、その空間のなかに静かで確かな存在感を放つ祈る女性の姿。行きたくないと思っていた場所で、こんなに感動している。朝食を共にした彼の一言で行こうと思ったが、自分の意思ではないような気がしならない。誰かが連れてきてくれたんだろう。それは誰なんだ。おばあちゃんか、妹か。そんなときに、浮かんだ一人の人がいた。きっとそうに違いない。彼がここに連れてきてくれたのではないか。コロンボに着いた時、このまま終わっていいのかという気持ちがどこかにあった。ストンと吹っ切れる何かが欲しい。何かがまだ足りていない。そんな気持ちのままコロンボの街を歩いていたが、それが何かはわからなかった。
本殿のひんやりとした床に腰を下ろし、空間を味わうように息を吸い込む。ぼくは彼にありがとうと心でつぶやきながら、その場で手を合わせ深く額づいた。

ぼくのスリランカの旅が終わった。

神聖な境内は裸足で入っていく
スリランカの仏教寺院では、こうした建物は珍しい

祈る姿は美しい
線香を手に女性が入ってきた
思い思いのやり方で幸せを祈る
親子だろうか。腰を落ち着けて拝む。何を思いながら祈っているのだろう
この空間にいると、訪れた人は何かを残していくものだと思えてくる

火を灯すと、ココロに火が灯るように思えた