折りたたみ自転車と列車でスリランカを巡った45日

<ナインアーチブリッジ(エッラ)>

旅の終盤、ハットンという町から列車でエッラまでやってきた。高地にあるため、茶畑や見晴らしのいい山、落差の大きな滝など自然が豊かで、欧米人に人気の町。エッラで少しゆっくりとしたいという気持ちがあったが、ほかの町で時間を使ってしまったこともあり、のんきなことを言っている時間もなくなってきた。エッラで見ておきたいものを一つに絞るとすれば、ぼくの場合はナインアーチブリッジだった。

夕方近くにゲストハウスに到着した。宿のママにナインアーチブリッジまでの所要時間をたずねたところ、歩いて1時間ほどかかるという。明日の朝、行くことにはしているが、今日行っておけばロケハンもできる。どんなところかもわからずに、明日の未明に暗い道を歩くのもどうかと思い、行ってみることにした

橋の方向へ歩いていると、戻ってくる人には時々出会うが、同じ方向に歩いていくツーリストの姿は見えない。日が暮れないうちにと急ぎ足で歩いていると、ナインアーチブリッジの写真が載った看板が出てきた。どうやら看板の下にあるブッシュを進めということのようだ。徒歩専用の近道なのだろうか、降りていくと、戻ってくる人たちにぞくぞくと出会う。時間的には太陽も落ちて暗くなり始める時間だ。小走りになりながら、山道を進むと10分ほどで橋を見下ろせる場所にやってきた。橋や!っと思った瞬間、橋の上に群がる観光客の数に驚いた。この時間でもかなり人がいて写真を撮っている。橋の写真ではなく、橋を絡めた自撮りや、恋人や友達の写真だったりする。こんなに人がいて、列車が走ってきたら、どうなるんだろうと思っていたら、列車が走る音が聞こえてきた。みんな一斉に橋から逃げる。逃げ遅れた人は、線路からなるべく離れる。そこを列車はゆっくりとしたスピードで走っていくのだ。日本なら目くじら立てて大騒ぎになるところだが、ここはスリランカ、許されるのだ。観光客のあまりの多さにげんなりしていたが、このおおらかさに思わず笑みがこぼれて、心がゆるむ。これでいいのだ。

もともと、ここエッラやキャンディ、ヌワラエリヤ、バドゥーラなど高地を走る列車は、イギリス植民地時代に紅茶を運ぶために作られた路線。ナインアーチブリッジは、その路線の渓谷をわたる橋として1921年に完成した。9つのアーチで全長91mの路面を支えている。バリバリ現役の橋ではあるけれど、もうすでに100年近く経つ。その堅牢さとともに、時に磨かれた佇まいが素晴らしい。

翌日未明、一番列車を撮ろうと、夜が明けない道を歩いた。到着するころに空がオレンジに焼けてきた。今日もいい朝だ。そう思いながら空を見上げる。この時間ならさすがらに誰もいないだろうと思っていたが、橋が見える高台までやってきたとき、すでに数組のカップルがカメラを手にアングルを探していた。少しずつ人は増えるが、早朝から来る人たちは、橋の風景や列車を撮りたくてやってくる人が多い。そのため、橋の上に居続けることが周りにどういう影響を与えるかを心得ている。橋の上での自撮りは手短かにして、列車がくるまでに、昨日アタリをつけたポイントで腰を下ろした。空気がひんやりとして湿気を帯びている。鼻から大きく息を吸い込んでみる。空気が美味しい。やさしくて生っぽい。森の朝だ。こんな風に感じたのはいつ以来だろうか。

通常、列車はこの橋を一日に11本ほど通る。1本目は6:15。その時間に照準を合わせて待っていたがやはり来ない。予定は目安だとわかってはいたが、その間に自撮り人が橋の上に来てしまっては残念なことになってしまう。空気の美味さも忘れヒヤヒヤしたが、それより先に列車はやってきた。昨日は青色の比較的新しい車両だったが、今日は何度も色を塗り直したエンジ色の車両。こちらの方が味わいがある。橋の上に人がいないからか、昨日よりもスピードが少し速い。静まり返った森のなかを列車はカタコトと音を響かせながら通り過ぎていった。もう1本列車が来るのを待ちたいと思いつつ、9時の列車に乗るために宿へ急いだ。

撮影するなら早朝に限る
早朝は橋の上に立ち止まる人がいない
卵型のトンネル
線路の両サイドが広いから、列車が通っても避けることができる
鉄道マニアではないが、これを見るためにやってきた
早朝からヤシの実を運ぶ男性
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