いつもの聞き慣れたアラームがなる。
目覚めると、様子が違うことに戸惑った。
別にトラブルがあったわけじゃない。
ここはどこ?ここで何してる?
と自分が頭がトラブっただけ。

まだ、頭が日常から旅に
きっちりと切り替わっていないのか、
頭が混乱したようだ。

朝の撤収は時間がかかる。ある程度片付けたところで写メも。周りは住宅だらけだった。
雨と夜露を避けるため、なるべく屋根のある所で。撤収時間が短縮できます。

 

撤収は設営よりも時間がかかる。
広げるよりもたたむ方が面倒なのだ。
5時に起きても、うだうだしていると
あっという間に時間が経ってしまう。

町が起きないうちに公園を出たかったが
出発は6時半を過ぎてしまった。
住宅街でも朝のラッシュが始まろうとしている。
まずは腹ごしらえといきたいが、
通勤通学の時間は、歩道も道路も混む。

少しでも郊外に行きたい。
いただいた差し入れで
空腹をごまかしながら歩く。

ここまで歩いてきて、少し気になっていたことがある。
リヤカーが重いのだ。
想像以上に重かった。
フラットな道は、うまく転がってくれるから
荷重がそれほどかからない。

問題は坂。
大きな坂でなくても、
道路から歩道に乗り上げる小さな勾配でも
結構きつい。

オオシマ製リヤカーは、剛性もよく
タイヤもウレタン樹脂が充填された
ノーパンクタイヤだから
転がり抵抗が低い。

その分、ゆるやかな坂にも敏感に反応する。
グーっと後ろに持っていかれてしまう。
陸橋などの坂は、相当気合いが必要で
途中で止まってしまうと、100kg以上の塊が
後ろに転がっていく。

 

箱根駅伝でよく聞く権太坂あたりから
歩道もだんだん狭くなってくる。
道路の路肩も狭い。
道もカーブしているから、
路肩を歩くのは危ない。

仕方なく歩道を歩いていくが、
幅が狭く、フェンスやガードレールが
何百メートルも切れ目なしに
つながっている。

狭い歩道の両サイドにリヤカーを
ぶつけながらぎりぎりのところを進んでいく。

特に狭いところは向きを変えつつクリアしたが、
どうにもクリアできないものが見えてきた。

道路標識の支柱だ。
歩道の真ん中にドカーンと埋めてあり
万事休す。

Uターンすることもできない。
袋小路に入ってしまった。

仕方なく、リヤカーを押して下ってきた坂を
登っていくが、引くより押す方が舵がきかない。
さっきはきり抜けてこれた場所が
微妙な舵取りができないので抜けられないのだ。

結局、引いたり押したりしながら
フェンスの切れているところまで戻った。

道路は片道1車線で狭い。
しかし、そこしか歩く所がない。
後ろから来るトラックがぼくを追い越せず
渋滞ができてしまっている。

まずいと思い
初めてリヤカーを引いて走ってみた。

ゆるやかな下り坂なので、
どんどんスピードがでる。
楽に走れるわ〜と最初は思っていたが、
リヤカーの加速は止まらず
次第にぼくを押し始める。

やばい!と思ったが止まらない。
後ろからトラックが来ていることは
わかっているけど、
力づくで止めないと、
リヤカーの下敷きになってしまう。

必死で体を後ろに倒し
靴底から煙が立ち上るほど
足を踏ん張りながら必死で止めた。

1号線のど真ん中。

引きつった表情で、後ろのトラックに
頭を下げながら、歩道に入れるところまで歩いた。

このままでは死ぬ。
相棒に殺される。

歩道が狭い上に道路標識の支柱が後で追加されると通れないのだ。
この道を何百メートルも歩いてきたが、この先で完全にアウト!
戻るのはバックで。あともう少しだ。

 

とにかく休みたかった。
朝食もごまかしだったから、
次に見つけたコンビニで
ゆっくり休憩を取ることにした。

怖かった〜とリヤカーによりかかって
うなだれていると、
一台の車が入ってきた。
リヤカーのすぐ横だ。

降りてきたかっぷくのいい男性は
足早に店内に入っていかれた。
そして、またすぐに何かを買って
出てきて運転席に乗り込んだ。

しかし、また降りてきて、
「東海道歩いてんの?」と
聞いてこられた。

そこから話しが始まり、
「これも何かのご縁。買わせてもらうわ」
と買ってもらった。

移動中に買ってもらった第1号だ。
こんなカタチでも買ってもらえるチャンスがあるんや。
歩くことが自体が宣伝になっているのかもしれない。
そう思うと、先ほどのリヤカー止まらない事件で
落ち込んでいた気分はふっ飛んでしまった。

よし!歩くぞ!
メラメラとチカラが湧いてきて歩きはじめる。

ゆるかな坂を体じゅうから汗を吹き出しながら
坂をのぼっていっていた。
坂の途中に中古車屋があり
偶然スタッフさんと目があった。

すると「何してるんですか?」と
声をかけてもらった。

「面白いねえ。テレビに出て有名になってよ!」
とカレンダーを青田買い。

うっそー!
って感じだった。
立て続けに、道端で買ってもらえるとは。
気分はさらにアップして
足取りはどんどん軽くなる。

 

今日の中間地点、戸塚駅周辺に到着。
ここがまたリヤカーにとって難所だったが
幸い駅のエレベーターにリヤカーが入ったので
線路をまたいで向こう側にいくことができた。

そのエレベーターを待っているときに
またまた声をかけてくれるおじさんがいた。

リヤカーの文字をずっと読んでもらっていたようで
「すごいことしているね〜
ちょっとヨーロッパの話しから聞かせてよ」
とそこで話しが始まった。

15分ほど話しただろうか、
「感動した!今67歳だけどまだやれるって思えてきた。
ぼくも新たな一歩を踏み出すよ!ありがとう。
カレンダーを見て君のこと思い出すから」
そんなことを言ってもらえたのだ。
うれしかった。

ぼくは歩いているだけなのに
誰かのココロを動かし、
誰かのチカラになっている。

誰かが発する熱が、触れた人に伝導することで
人のココロは動いていく。
それを体験として実感することができている。

ありがたい。

 

今日の最終目的地、藤沢駅前についた。
時間は少し遅かったが、
一番人通りが多そうなところを探し店を開く。

しかし、藤沢駅前では
足を止めてもらえる人が少なかった。

そんななか、一人のゴージャスな女性が
ぼくの前で足を止めた。
つば広の帽子に首元をフワフワさせて
胸元や手には
ジャラジャラと重そうなものが付いている。
マダムヤーンだ。

じっくりとこちらを見まわしながら、
「あなた、カレンダー売って歩いてるんでしょ。
これ、テレビ局に言った?」と聞かれた。

「いや、言ってないですけど」
「なんで言わないのよぉ〜いいカレンダーじゃなぁい。
やってることも話題性あるし、
言えばどこかのテレビ局が取り上げてくれるわよ〜
そしたら、カレンダー即完売よぉ!
こんな所でちまちま売ってないで
そうしなさ〜い!ホッホッホッ〜」
とカレンダーを買わずに立ち去った。

褒めてくれたのか、けなされたのか
わからなかったけど、いいヒントをもらった気がする。

リヤカーで歩きはじめたときから、
地べたからのスタートだと思ってやっている。

何にもなくて当たり前、何かが動けばラッキー。
くらいで、今のぼくには上等だ。
誰かの一言がぼくにとってはヒントになることもある。
そして何かがかわるきっかけになるかもしれない。

今日も昨日に引き続き野宿。
最後にカレンダーを買ってくれた
若い自転車乗りのにいちゃんに教えてもらった公園だ。

一組のカップルがいたが、
ライトをそちらに向けないように設営し
テントに潜り込んだ。

出会いに感謝だ。
そして、モノが売れる売れないの不思議さに
興味が湧いてくるのを感じながら
ライトを付けたまま睡魔に瞬殺されてしまった。

藤沢駅前。ここで店を開きたかったが、向かいの店に断られてしまった。当然ですね。
結局、不動産屋のノボリに挟まれた所で販売。
自転車で何度も前を通っては通り過ぎていたお兄さん。兵庫県明石の出身だった。野宿するのにいい公園を教えてもらった。

 

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